無とは何もないこと

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「モキュメンタリーはフィクションだと知らずに見たほうが良い」わけではないでしょう--『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』

lobotomy.hatenadiary.org

上記のブログで取り上げられてるので『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を見た。まあハッキリ言って面白くはないと思った。面白ポイントはモキュメンタリーをテレビ放送でやっているという事実だけだと思う。

tver.jp

「モキュメンタリーをフィクションだと知らずに見るのが良い」論

『奥様ッソ』の感想を検索してみると上記のブログを含めて「こういうモキュメンタリーはモキュメンタリーであると気付かない状態で見るのが一番」というのがいくつかヒットした。そして、そのような考えが『奥様ッソ』の煮え切らない内容になる原因になっているんだろうなと感じた。

上記のブログでモキュメンタリーの例として示されている『放送禁止』や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』はどちらもホラーとして制作されている。ホラーというのは事実として語るから怖いという側面もあるので、『ほんとにあった怖い話』のようなタイトルさえあるジャンルだ。

『コワすぎ!』はディレクターの工藤がヤバい映像を撮りに行ってヤバい映像を撮れたという商品を発売しているのはなんら不自然ではない。『放送禁止』は放送できなかったヤバい映像があるので編集しているという体裁をとっている。いずれにしても、その映像が存在している理由付けがなされている。

一方で『奥様ッソ』はホラーではなく家族ドキュメンタリーという体裁の番組だ。そんな番組で明らかに不穏なカットを挿入するのは作為的すぎる印象がある。まして家族ドキュメンタリーを取材しているさなかに殺人事件が起きているのは不自然極まりない。

『放送禁止』『コワすぎ!』は「ホラーを見ていたらホラーだった」なので、それが事実かどうかはあまり関係ない構造になっている。対して、『奥様ッソ』は「家族ドキュメンタリーだと思ったらホラー・サスペンスだった」という構造に拘ったためか不自然さが強い。番組の構造そのものに無理があるように思う。

そもそも『コワすぎ!』は白石監督が田代役で出ているのだから明らかにフィクション性を出している。白石晃士役で出演している『オカルト』はノンフィクションっぽく描写しておいて最後にどんでん返しがあるから面白い。モキュメンタリーの手法はノンフィクションっぽさを演出するのに有効ではあるが、必ずしもノンフィクションっぽさを出す必要はないのだ。

『奥様ッソ』はAマッソ・金田朋子紺野ぶるまが出ているテレビ番組という体裁なのでノンフィクションっぽさが強いのだが、そのノンフィクションっぽさが家族ドキュメンタリーという場で不穏な描写をするのとあまり噛み合ってないように思う。「家族ドキュメンタリーで不穏な描写をホラーっぽく入れるのはテレビ東京(BSテレ東)ではOKなのか?」というのが没入感を阻害しているのだ。『やりすぎ都市伝説』で不穏な描写を入れてくるのはわけが違う。

モキュメンタリーではないが、近い例としてTBSの『水曜日のダウンタウン』と『すてきに帯らいふ』がある。こちらは、『水曜日のダウンタウン』のホントドッキリ企画で「帯番組のMCが来たと思ったら"帯についての番組"のMCだったら引き受けるのか」というドッキリの"帯についての番組"を本当に放送してしまうというものである。この『すてきに帯らいふ』は単体ではまるで面白味のない番組なのだが、MCのニューヨークと『水曜日のダウンタウン』でのプレゼンターの麒麟 川島が副音声でコメンタリーして面白さを担保している。

コメンタリーなどでMCのニューヨーク 屋敷が「水曜日のダウンタウンを見ずすてきに帯らいふだけ見てる人はどう思うのか」と言っているのだが、『すてきに帯らいふ』のターゲット層は『水曜日のダウンタウン』視聴者だとして切り捨てているのだろう。すごい話だ。

『すてきに帯らいふ』はこれをテレビで放送してしまうということが一番の面白ポイントなのだが、『水曜日のダウンタウン』より前に放送したりはしていない。『水曜日のダウンタウン』がなかったらこんな番組は誰も見ないし、見たところでつまらないのだから当然だ。

そうすると、『奥様ッソ』についても同様にうまく連動した仕掛けを作るなどしてフィクション性を見せてもプッシュしたほうが良かったのではないかと思う。また、『すてきに帯らいふ』はつまらないなりに単体のテレビ番組として成立しているのだが、『奥様ッソ』はテレビ番組としてはチグハグな作りになっているのも差を感じた。

まとめ

  • 「モキュメンタリー」と「ノンフィクションっぽさ」は別の話
  • 『奥様ッソ』は「ノンフィクションっぽさ」と「家族ドキュメンタリー」と「不穏な描写」の組み合わせが噛み合ってなかった

以上、ザッとブログに考えをまとめておく。