『ガールズバンドクライ』10話の熊本弁描写が作中の展開と噛み合いすぎている
2話の酷すぎる熊本弁
ガールズバンドクライ10話の予告で熊本回であると示されたときに思い浮かべたことはただ一つ。2話で披露された凄い棒読みの熊本弁だ
高校を中退ってことはそれだけ将来の選択肢が狭まるってことばい。なりたいものができてから後悔しても遅かとぞ。
熊本弁が下手なのか演技が下手なのか区別がつかないレベルで棒読みに聞こえた。「演技はできるが熊本弁ができない人の熊本弁演技」「熊本弁はネイティブだが演技はできない人の精一杯の演技」はほぼ近似していくのかもしれない。
ハッキリ言って聞くに耐えないレベルの演技だった。こんな酷い演技で真面目な話をされても真面目に受け取るのはムリなのである。キャスト は長野県出身とのことなので方言指導がなしで熊本弁を演じるというのも難しい話だ。「ネイティブスピーカーを起用する」「方言指導をつける」のどちらかであるべきだっただろう。
ちなみに、より自然な熊本弁にするなら「狭まるって」の「る」とか「遅かとぞ」の「と」は促音便になって「狭まってことばい」「遅かっぞ」となる。また、熊本弁のオ母音は潰れがちなので「遅かっぞ」は「おすかっぞ」くらいの気持ちで発音するほうが自然だろう。
こちらの記事 でも紹介されているように熊本弁では促音便が多用されるのが博多弁との明確な違いなのでこれを使えていると非常に熊本弁らしさが表現できる。熊本名物「いきなり団子」は熊本弁だと「いきなっだご」である。博多弁でよく取り扱われる「好いとうよ」は熊本弁に変換するなら「好いとっとよ」になるだろね。
井芹父(井芹宗男)を標準語にする英断(10話)
10話で井芹父が家の前で待ち構えてひとこと。
仁菜……
さすがにここで熊本弁は出ない。緊張感を保って見ることになる。
そして熊本の実家の前で再登場。
仁菜……、探したぞ。
あれ、熊本弁ではない?まあ、「探したぞ」だけだからな。
となってからのBパート。長台詞でも一切熊本弁を話さない。家でも高校でも一切熊本弁を話さないのだ。標準語になっているからかごく自然な演技になっている。2話の棒読み熊本弁だったら一切説得力の感じられない話になっていただろうが、これなら真面目な話として成立している。
1クールアニメの2話で方言を話していたキャラが10話の再登場時に一切話さなくなるなんてのは普通ではないだろう。週刊連載の漫画なら初登場から数週後にキャラ付けが変わるというのもありがちだが、1クールアニメなら全体の構成も考えられているのでそんなことはほぼ起きえない。「2話で熊本弁だったのだから10話でもそうすべきだろう」としてしまうのが普通だ。
2話の完パケで熊本弁が浮いているから変更されたのか10話の収録中に違和感が大きすぎるから変更されたのかはわからないが、いずれにしてもあの演技では成立しないと判断されたのだろう。大英断である。そして、この判断が10話の内容にも絶妙なリンクをしていた。いじめに向き合わなかった贖罪を見せるような父親の姿と重なってるように思えた。もちろん綺麗な熊本弁を話せるならそれに越したことはない。だが、綺麗な熊本弁を話すのは無理だという環境で「棒読み熊本弁を採用した」過去を振り切ってまで「標準語で話すキャラということにする」として向き合う姿勢にはある種のリスペクトを送りたい。
酒井監督が熊本出身*1なのにどうしてこうも熊本描写が粗いのかと言い続けていたがきちんとわかっていたのだと感じられたのが10話で描かれた内容と重なった気持ちよさもあった。熊本弁(あるいは肥筑方言)がわからない人にとっては熊本弁の方が仁菜の地元での出来事との向き合いとしては飲み込みやすいだろう。それでも分かる人には受け入れられないほど酷い熊本弁でやるくらいなら標準語でやるという誠実な判断は不器用にも仁菜と向き合った姿とほぼ同じように思えた。
10話の熊本描写
書きたいことは終えたのだがせっかくなので10話の熊本描写について書き連ねる。
新幹線移動
1話のときから言い続けているが東京-熊本を新幹線で移動するのは非常に辛い。博多まで5時間座りっぱなしで乗り換えるときにまだ終わらん……という絶望に飲まれるので仁菜のように「着いちゃった……」にはならんでしょう。
普通は熊本-東京は飛行機で移動するし、特に25歳以下ならJALもANAも格安(新幹線より数千円安い)の当日券などもある。熊本の高校だと高1の修学旅行で東京から飛行機に乗るのが王道。寄り道なしで6時間移動はかなりしんどいので聖地巡礼者は一度やってみてほしい。もう一度やろうと思う人は乗り鉄の才能がある。
ところで、飛行機移動しないのはJR東海とコラボしてるという商業的理由が大きいのではないかと思っている。
10話の下りでは在来線ホームで豊肥本線に乗り換えているし、1話も10話も東海道新幹線を東京まで乗っているところが描かれている。九州新幹線は外観も内装も一切描写されず、東海道新幹線は何度も描かれている。
羽田空港から京急の乗り間違いするのも自然だし本来的には飛行機だよなとずっと思っている。
竜田口駅
豊肥本線だ。熊本空港から熊本市中心部(市内と呼ばれる)へバスで移動すると延々と渋滞しているエリアを通るため20kmの道のりに1時間かかるのだが、竜田口なら空港寄りなので非常にアクセスしやすい立地だ。自家用車がない場合でも肥後大津駅経由でアクセスしやすい。
高校
「豊肥本線で水前寺駅へ→市電に乗り換え→洗馬橋で降りる」と熊本市で生活したことあるなら誰でも頭に浮かぶルートで移動している。
洗馬橋ということで仁菜が通っていたのは肥後本高校は第一高校がモデルで確定だろう。第一高校は女学校→共学化→共学なのに男子が不在(事実上の女子校)→再度の「共学化」というなかなか変な経歴の高校である。サクラマチ クマモト(交通センター)の裏手にあり繁華街へのアクセスのしやすさで言えば熊本市内の高校でもトップレベルである。
熊本では四高*2(熊本高校・済々黌*3・第一高校・第二高校)と呼ばれる4つの県立高校が偉いとされており、井芹家のこれまでの描写から四高がモデルになるのはごくストレートな採用だ。
個人的な感覚でいえば父親の気性も仁菜の気性も完全に済々黌のそれだと思ったんだけども。なんか堅苦しいとことか気性が荒いとことか非常に済々黌っぽさがある。
ところで23:30から放送している『魔法科高校の劣等生』は魔法大学付属第一高校が舞台なので24:30のガルクラとうすーいリンクが発生している!
辛子蓮根カレー
辛子蓮根とカレーはカレーのスパイスと辛子蓮根の辛子が喧嘩しそうで合わないと思いますが井芹家ではそうなんでしょう。
親に尋ねてみたがやはり合わないだろうと言っていた。辛子蓮根じゃなく蓮根フライのカレーならアリらしい。確かに。
出発
ここぞとばかりに熊本市内の風景が映される。熊本市のメインストリートみたいなところを通るので熊本市圏にいるならほとんどの人が見覚えがある風景だ。
水道町から九品寺に向かうところの白川を渡る橋
大甲橋というらしい。
新市街の入口
高校からサクラマチを挟んだ反対側にある。ウルトラマンティガ43話ではこの辺りがゲオザークに破壊されていた。
通町筋
市電の電停と熊本城をワンカットで映せるのもあって熊本市の象徴的なところ。
熊本市役所も近くにあり、メインアーケード街の下通りの入口もある。