無とは何もないこと

総てがないのではなく「無」という状態があることずら

デビルマンレディー 感想

はじめに

デビルマンcrybabyが話題な中、Wikipediaで1998年放送のTVアニメ『デビルマンレディー』を見たら脚本陣が小中千昭古怒田健志村井さだゆき長谷川圭一・赤星政尚という完全にウルトラマンの脚本で構成されているのを見て即決でDVD-BOXを購入。

デビルマンについての知識は、主人公の名前が不動明で親友でライバルみたいなやつが飛鳥了で漫画は過激で人間の負の面を描いてて悪魔と合体して……といった漠然としたイメージしかない状態の視聴なのでデビルマンとしてどうこうというのはあんまりわからないながら、小中千昭ウルトラマンライターが作った作品としての見方もできたりした。

そういうこともあって下記の感想はちょくちょくウルトラマンの話あり。

各話感想

第1話『獣』

1話にして敵が「デビルビースト(通称:ビースト)」であること、ビースト対策の組織がいることなどがあっていきなりウルトラマンネクサスやんけとなってしまった。そもそも主人公であるデビルマンレディー:不動ジュンの名前からして、姫矢准の元ネタの可能性もある気がする。

不動ジュンは儚げな印象の女性というのがAパートで描かれているので、Bパートでジュンが凶暴性をまとうデビルマンとなってビーストを殺すという対比がかなり印象的。

デビルマンは人間サイズという印象があったのでギガイフェクトにはびっくりしたんですが、東映アニメの『デビルマン』を見たら普通に巨大化して戦ってるので、そっちを見たらあまり突飛な発想ではないのかも。

しかし、巨大化したレディーの彩色されたデザインラフを見て判った。ストーリーはマンガ「デビルマン」。しかしアクションは東映動画のあの「デビルマン」でいくのだと。

とあるとおり。

第2話『血』

2話は設定紹介の色が強いので大きく話が動くわけではない感じ。

和美がアスカに挨拶をするシーン、後から考えるとかなり貴重。貴重だから何という話はないけど。

第3話『翼』

ジュンを追い詰めようとするビースト サトルがジュンの親友 和美の一家を惨殺するという前半で最も猟奇ホラーな回。

ビーストが人間と同様の知性を持って攻撃を仕掛けてくることが描かれていたり、ジュンが自分の意思でデビルマンに変身するようになったりと物語の足場固め。

ウルトラマンネクサスの前半はこんな回ばっかりで全然面白くなかったけどデビルマンレディーはこんな回が来ても面白いなあとか思ったり。

第4話『胚』

アスカに連れられてビーストを狩りに行くのはここから。

第5話『鮫』

この回は何と言っても、ゲオザークのビーストが出てくること!地上に鮫で「モンスターデザイン協力 丸山浩」ときてるのでまあ。

今回のビーストがジュンの高校の同級生で百合っぽい話だけど、それとは別にジュンと和美の関係の描写が匠の技。

  • 家族を殺されてなんやかんやでジュンの家に転がり込んだ和美(これは4話)
  • ダブルベッドを買おうとする和美に自分が買うと言うジュン
  • ベッドを買いに行って店員が「新婚ですか?」と話しかけてくる
  • 和美が部屋に帰ると2段ベッドが置いてある

天才

第6話『猫』

今回からは小中千昭の脚本陣も参加。

5話で高校の同級生がヤンデレレズのビーストだっただけでなく6話のビーストもヤンデレレズなのはびっくり。こちらはジュンの紅茶に睡眠薬を仕込んで全裸で拘束する肉体派。

前回抱きしめられなかった後悔を描いて、今回はビーストを抱きしめて殺すという対比が効いていた。

第7話『霧』

全体的にアクション重視で見応えがある。霧に映る戦闘が物語へのアクセントにぴったり。

戦闘シーンも今までで一番動くし見応えがあって単純に面白い。

その面白さを堪能したあとにビーストを倒したジュンに渡されるビーストの家族の写真。ビーストも元は人間だということを思い出させられたジュンの心情が戦闘シーンを見て高揚した気分を冷めさせられた視聴者の心情と一致するのが見事。

第8話『敵』

新たなデビルマン:ベイツが出てきたり、ビーストの存在が認知されると因子の保有者が連鎖的に目覚めてしまう危険性が言及されるとかの設定周りの追加描写があったあたりかな。

この辺からジュンがスランプっぽい。

第9話『眼』

ガンQビーストもとい眼球ビーストがジュンを精神的に追い詰めて完勝するけど、肉体的には大して強くなかったのでHAの火炎放射にやられるという特殊な構成にウルトラセブンキュラソ星人みたいだと思った。

第10話『炎』

やっぱり子供回は大人向けの作品でこそ輝くと思う。

あと、全身が燃え上がってるから王様ゲームだとか言ってたら脚本が王様ゲーム古怒田健志だったのが面白かった。

第11話『箱』

「映画館で喋るな」と言わんばかりにジュンとアスカの前に座ってる男が2人を見てくるのが面白かった。

可能ならビーストを殺したくないというジュンとビーストとなった者は殺さなければならないというアスカの立場の違いがここまでに明確に行動として描かれたことはなかったので結構ショッキング。しかし、今回のカメレオンビーストもデパートの社員を4人殺してるのでもう遅いのかも。

第12話『顔』

今回もジュンが苦戦してベイツが助けに入る展開。

ベイツはギガイフェクトできないことがコンプレックスらしいのでそこの対比がメインかな。

第13話『縄』

…………官能小説か?

第14話『家』

サトルが再登場しジャーナリスト坂上が殺される転換点ではありますが、実際に大きく動くのは15話なのであっさりした印象。

第15話『鴉』

14話では狂言だった和美の誘拐が本当に実行され、和美がジュンがデビルマンであることを知るジュンの日常が破壊される展開。

こういう不可逆な破壊は否応なしに緊張感を高められる。

第16話『聲』

止め絵が多いし全体的にはあんまり作画良くはないけどちょくちょく入る濃い作画の顔が印象的。

HA内の派閥争いが顕在化してくる展開はウルトラマンダイナの終盤っぽいところもあるかも。

第17話『飢』

・撮影中にデビルマンとなって周囲の人を惨殺し、サトルにそれが本性だと言われる夢を見るジュン
ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEYでティガダークに変身してカミーラに3000万年前に世界を滅ぼしたと言われ風船を持つ少女を殴り潰してしまう夢を見るダイゴ
同じ。脚本も長谷川圭一だし完全に同じ。
ダイゴは超古代人の末裔であって3000万年前のティガ本人じゃないのでカミーラの言動は的外れだと前から思ってたけれど、デビルマンレディーをやりたかったんだから押し込んだんだ腑に落ちた。

14話に続き5,6話のヤンデレレズの人たちのトラウマがフラッシュバックする描写。思い返すと連続でやることで印象づけられた5,6話の構成が結構効果的だった。

ラストは久々にアスカが顔見せ。安心するような緊張するような。

第18話『軀』

ベイツ初登場時にアグルかと思ったけれど、この回を見る限りイーヴィルティガ:マサキ・ケイゴだった。

ついに念願のギガイフェクトを起こしても既に人間の精神を保てずにビーストそのものとなってしまう描写が巨人の力に飲み込まれるマサキ・ケイゴのそれ。

と言ってもジュンとダイゴの立ち位置が正反対と言ってもいいくらいに違うため、印象もだいぶ違うかも。

ベイツを倒してギガイフェクトのまま飛び立っていくジュンが次回予告でウエディングドレスを着ているのはかなり続きが気になる作り。

第19話『枷』

作画が死んでる(特に前半)けど、湯浅さんの前で変身する流れからは演出がキマってて良かった。

和美が押しかけたオネエの人が実家との電話では男として喋るのに対して「カムアウトしてないんだあ」というところは20年前のアニメとは思えないほど現代的。

このあたりからHAもアスカの思惑が強くなってきて悪役チック。

第20話『骸』

今回からは服を調達するのも厳しくなったのかジュンの服が裸にコートになってる。変身する前から全裸になるので服が破れなくて合理的。

前田さんの代わりのアスカの助手がデビルビースト四天王の一人だった。でもアスカは気付いた上でどうでも良さそう。

アスカ蘭は男だという過去が明らかに。前に何かを注射している描写は女性ホルモンの注射だったのかな。19話でオネエを出したのもおそらくアスカの過去を描く前置きみたいなことなんでしょう。

そういえばよくわからんうちに再生ビーストがいなくなってた。

第21話『印』

「人の心を持った獣たちを、心をなくした人間たちが狩りだしていく」という不穏な予告のとおりの深刻な展開。つらい。

ジュンと離れた後に和美が心を安らぐことができた千佳たちとの居場所もなくなり、千佳は和美たちを守るために自衛隊に殺される。つらい。

ジュンが守ろうとした和美もサトルによってビースト因子を目覚めさせられる。つらい。

真紀猛なる不動明オマージュキャラが登場。完全に別のアニメのキャラ。ウケる。

第22話『願』

和美がデビルマンとして目覚めたことでジュンと心から共に過ごせる唯一の回。

和美のビーストとしての姿ははっきり描かれないのは和美が日常の象徴であるためと解釈するのが自然かな。すると、和美の亡骸を2人で住んでいたマンションに連れていくのは日常の象徴の終わりということになる。

そういえばベイツ生きてた。

第23話『命』

この回でのみ『デビルマンレディー』という言葉が出てくる。HAが『ハンターJ』と呼ぶ以外にはジュンを特別な呼称で呼ぶキャラはいなかったので、『デビルマンレディー』という言葉が持つ意味がぐっとのしかかってきた。2クール目になってからはデビルマンの定義がデビルビーストとほぼ曖昧になっていることもあり、デビルマンレディーという呼称が一際輝く。

サトルと四天王が合体して巨大ビーストになるが、四天王が合体したボディーの窪みにサトルが入っていく描写はマジンガーみたいだった。こんなところでパロディネタを入れてくることにビックリだよ。

今回でジュンとアスカ以外のレギュラーキャラはほぼ全滅(湯浅さんは死んでないけど出てこない)。アスカの計画が最後の一手を残すのみとなって物語としてもジュンとアスカの話に収束していく。良い人も悪い人もアスカの計画の捨て駒として死んでしまった。

第24話『心』

一気に半年が経過。世間は平和を取り戻してるような描写がなされるのがかえって怖い。

ジュンの回想として総集編要素も多々ある。キスダムR余塵節みたいなものということでいいのかな。

第25話『神』

"処理場"には謎の模様が描かれていたり、宗教的な集団が現れたりしてる。おそらくビーストを生贄にした儀式を行っていたのかと予想できる。

不動明っぽいキャラこと真紀猛がデ・エエエと叫びながらデビルマンに変身している。もう東映のデビルマンの変身そのもの。ここの叫び声は小中千昭氏の発案らしい。その時は現場が修羅場で監督はアフレコに来てないとか。めちゃくちゃシリアスな展開で大真面目にこんなパロディネタを入れてくるのはビックリだ。

アスカを殺しに向かうジュンが突如謎の空間に連れされられてアスカと対面する。アスカが自分は男でも女でもないと言ってジュンを押し倒す。TVアニメなので直接描写されてはいないけど完全に犯している。戦闘ではなくセックスでジュンを倒す展開もある種の宗教的なものと言えるのかも。

EDも前期EDに戻った。やっぱりデビルマンレディーにはこの曲が合う。

第26話『人』

これまではサブタイトルの文字は隅に置かれたが、最終話のみ中央に配置される。

神となったアスカは口を動かさずに喋る。これは創聖のアクエリオンの堕天翅族でも同様の手法が使われている。

アスカは頭から羽が生えていることからも創聖のアクエリオンの頭翅を思い出す。『デビルマン』ををまだ見てないので断言はできないが、アポロニアスと頭翅は不動とアスカ(飛鳥)の関係を踏襲していたりするのかも。そうするとアポロニアスの転生が不動GEN・ZENであることも直球そのものだったことになる。

閑話休題

アスカが神となったことで、(よく分からんけど)平和な世界となり人類は救われている様子。特にアメリカ合衆国大統領はとても楽しそうだった。

アスカに倒された(犯された?)ジュンは地獄(物理的な場所ではなさそう)に落ちてしまう。山のようになっているビーストたちの屍が、ウルトラマンネクサスの終焉の地を思い出すなあと思っていたら終焉の地で磔にされたウルトラマンと同じようにジュンが磔にされてしまった。あそこでデビルマンレディーのラストをやってるから憐編ではデビルマンレディー要素も収まっていくのかなと思ったり。

愛する和美も敵だったサトルもすべてのビーストたちの想い・怨念を受け継いで悪魔として戦うジュン。普通のヒーローの最終決戦は人々を救うために戦うけど、ジュンは人々に罪を背負わせるために戦うのがデビルマンという名前に結びつくのは見事。

戦闘も最終話なので盛り上がるし、久々にギガイフェクトのテーマソングも流れる。この曲はやっぱり盛り上がるね。

人とビーストが共存する世界となったことが描かれるが、ジュンが救われることはなかったか。雑踏へと消えていくジュンで完結する物語。ビターな味わいだった。

ジュンとアスカの決着をクレジットでも表現する演出がEDにもある。EDのキャストクレジットでは「ジュン・アスカ・和美」が最初に表示され、その回のメインとなるキャラが最後に表示されてきたが、最終話はアスカが最後に表示されている。

最終話にしてついにキャラデザの西岡忍さんが作画監督を担当(どんどん新キャラが出るためキャラデザに追われていたらしい)している。他の回とは明らかに異なる線のタッチで作品の雰囲気が一気に深くなった印象があった。

さいごに

小中千昭W(WはWriterの略)はホラーに強い人っていうのはウルトラマンを見てても感じた(クトゥルーな人だし)とおりで、陰鬱な雰囲気がそこにぴったりハマっていたと思う。ジュンは最初から最後までずっと暗い人間だったし満面の笑みを浮かべることなどただの一度もなかった。そんな陰気なところがどうにも魅力的だった。

作画は90年代アニメにありがちな感じの微妙さなので、ここに最終話で見られたような美しい雰囲気が要所でもっと出ていたらもっともっと引き込まれたかなとは思う。

ウルトラマンティガでキリエル人を描いた小中千昭のエッセンスが強く現れているとかウルトラマンネクサスやティガFOの元ネタそのままみたいな描写があったりとか平成ウルトラマン(特に長谷川圭一)を語るなら必見の作品だったので、20周年の今年に見れたのは良かった。crybabyに感謝。

デビルマンレディーと同時期に放送していたウルトラマンガイアでは2話でウルトラマンに変身した我夢が「負けない!僕はウルトラマンなんだ!」と自分に言い聞かせるのが違う路線で行くんだという主張であるような印象になった。ウルトラマンティガの光であり人であることに悩むダイゴはデビルマンレディーにも受け継がれてるのかなと。

「人として戦うのか」という要素はキスダム第三節の七生の言葉でも出てるようにキスダムとも共通するところがあるかなと思うけど、おそらく原作のデビルマンの影響が強そう(未読なので適当)。
でも冬音まわりはデビルマンレディーっぽさが強い気もする。裏返ったまゆら(鈴音)がビーストっぽいあたりとか、「ハーディアンはすべて敵ですか!?」のあたりとか。

昔のアニメを見るときあるある「今では有名な人の駆け出し時代」としても、EDが今とはかなりイメージが違う田村ゆかりのEDだったりデビュー直後の斎賀みつきがモブで出まくっていたりとかあって良かった。