無とは何もないこと

総てがないのではなく「無」という状態があることずら

ズートピア感想

 各所で「ポリティカル・コレクトネスを見事に描き切った名作」と言われている本作を見に行った。 そのうえで言わせてもらいたい。製作者が差別心を描くためにまた別の差別を描いてるだけではないかと。

(以下は終盤のネタバレも含みます)

 特にに気になったのは警察署に配属された主人公のウサギ(キャラ名は一切覚えられなかったので種族名で記す)が駐車違反の取締を命じられて不満そうにすることだ。 このシーンだけならば問題はなかった。"エリート意識を持った新人が小さな仕事を割り振られてショックを受ける"というありがちな描写だし、自分も最初はそう思って見ていた。 しかし、ウサギと共に事件を解決したキツネが最後に配属されてきたときのことである。「キツネも駐車違反取締で終わるんだろうな」と思いながら見ていたら予想外の展開で度肝を抜かれた。なんと、「駐車違反なんて小さな仕事なわけないだろ。暴走車両を取り締まってこい」といきなり重大な仕事を割り当てたのだ。この最後の展開のせいで序盤の仕事の割り当ての意味合いが全く変わってしまっている。「ウサギがウサギであるがゆえにつまらない仕事を割り振ったのでした。見た目で差別は良くないですね」ということになってしまう。はたして駐車違反を割り振るのは差別なのだろうか。新人ならばこのような小さい仕事から担当するのが筋ではないのか。全員が出払ってしまっては駐車違反取締は誰がやるのか。駐車違反なんてのは放置していてもいいようなどうでもいい仕事だったのか。事の大小はあっても駐車違反取締は不必要な仕事という描き方には違和感が拭えない。
 もう一つ気になるのが「獰猛そうに見える肉食動物は被害者で悪いのは副市長たち羊の一味でした」というオチだ。言うまでもなく価値観を逆転させただけで一方的な見方で善悪を決めつけているのは何も変わってはいない。"悪い羊たちは逮捕されました。めでたしめでたし"でいいのか?

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 ここまで書いたが、流石に差別心の描き方が不完全というだけでは星1つにするほどではなかった。ストーリー展開にも非常に難点の多い作品だということも要因である。
 この映画のストーリーはわらしべ長者のようになっている。"主人公のウサギが何かして巡り巡って命を助けてもらったり情報をもらったりする"という流れである。良く言えば「伏線の回収が見事」にてもなるのかもしれない。しかし、それによって刑事モノの謎解き展開をこのウサギはラッキーだけで事件を解決しているだけとなってしまっている。"黒幕の羊副市長が事件解決のきっかけになっている"くらいなら上手い回収と言えるのだが、キリがないほどに続いてくるため、パン屋のキツネが普通に使っている俗語を知るだけで大発見のようになってきて警察がどれだけ無能なんだよというように思えてくる。
 主人公のウサギについても問題がある。ネズミたちの街に逃げ込んだひったくり犯を追いかけて街中に大規模な被害を与えており、クビだとまで言われるのは当然だと思った(というか無断で侵入した時点で重犯罪だと思うが)ので反省したのかなと見ていたら終盤になっても黒幕の研究施設を発見したときに署へ連絡すればいいものを一人で突っ走って正面衝突未遂を引き起こすなど全く反省していなかった。持ち前の運の良さであらゆる問題を解決したため問題なしとされていたのだろうか。犯人を捕まえたこととネズミの街に入ったことは別問題なのと同じく列車を爆発させるほどの大規模な被害を起こしたことの責任は取るべきだった のではないかと思う。
 最後に唯一この映画で絶賛したい点を述べる。 それはナマケモノの描写だ。このシーンがあったので映像と演出は星5にした。 ディズニー作品はコマ数が多い(いわゆる"ぬるぬる動く")のだが、それがナマケモノのスローな動きと絶妙に合っていて、アニメーションの面白さを感じた。 このシーンはなんと公式配信されているので映画館に行かなくても見れるのが素晴らしい。

https://www.youtube.com/watch?v=FYy3n-ICuBo